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2020.12.24(木) 09:00 取材記事(教育旅行)福岡県立福岡高等学校が、修学旅行でホープツーリズムを体験しました

集合写真撮影(伝承館)

災害の始まりの展示を見る(伝承館)

大平山霊園(浪江町フィールドワーク)

活発な意見が交わされた「さすけなぶる」

[日程]
※3グループに分かれて実施 (福島県内2泊)
・令和2年11月2~4日 (第1団)
・令和2年11月3~5日 (第2団)
・令和2年11月4~6日 (第3団)

[学校名・学年・人数]
福岡県立福岡高等学校  2学年 388名 
※取材は第3団の生徒85名に対して、11月5日(木)に行いました。

[来県市町村]
いわき市 広野町 楢葉町 双葉町 浪江町  

[本県を訪れた目的]
 県立福岡高等学校は福岡県内屈指の進学校で、修学旅行は例年、海外と国内に分かれて実施していましたが、今年度は新型コロナウイルス感染症の影響により、全クラスでの行き先を宮城県と福島県に変更して行われました。福岡高校では、数年前より宮城県への修学旅行で震災学習を実施してきましたが、さらに深い学びを求め福島県も新たに選択しました。原発事故という特別な事情をもった福島県で、帰還困難区域等を見学したり、さまざまな立場の方々の話を聞いたりすることで、生徒たちの視野を広げ、生徒に潜在している向上心や知的好奇心を覚醒させる大きな契機とすることが目的でした。

[取材内容]
 今回取材をさせていただいたのは、同校の2年生約400名のうち、3団目となる85名の皆さん。宮城県で防災・震災学習を行った後、本県では、震災と原発事故により被害を受けた地域において、現状と課題について幅広い視点からの学びを自分事として考えるホープツーリズムを実施しました。
 宿泊先であるJヴィレッジを出発し、今年9月にオープンした東日本大震災・原子力災害伝承館では、はじめに全員でフィールドパートナー(※)から、一日の流れについてガイダンスを受けました。約1時間、伝承館で震災と原発事故の状況を「見た」後は、福島の想いを「聞く」ため、富岡町3.11を語る会の青木淑子代表の講話と対話が行われ、生徒の皆さんは、原発事故に対する思いについて率直な質問をしていました。
 続いて、浪江町・双葉町内のフィールドワークが行われました。海岸から約200メートルに立地する浪江町立請戸小学校の児童が先生とともに津波から避難した大平山(現在は大平山霊園として整備)では、フィールドパートナーから、津波被害の状況とともに迅速な判断と避難により奇跡的に犠牲者が出なかった話を聞きました。生徒たちは、「命の境目」ともなった高台から当時の状況を想像しながら、フィールドパートナーの言葉に真剣に耳を傾けていました。
 富岡町にある学びの森では、東京電力の社員から福島第一原発の廃炉作業の進捗状況と、福島復興本社の復興に向けた取り組みの説明を受けました。東京電力の社員との対話の時間では、「近年気候変動が問題になっている。もし水不足や災害などで原子炉を冷やすことができなくなったらどうするのか」など、鋭い質問も相次ぎ、熱心にやりとりがされました。
 最後は、避難所運営シミュレーション教材を使った「さすけなぶる」のワークショップを行いました。震災を人権の視点で捉えながら、グループごとに、避難所で起きる問題を考える内容で、高校生ならではのアイデアや解決案が次々と出され、最後まで協力しながら取り組んでいる姿が印象的でした。
 その後は宿泊先である、いわき市のスパリゾートハワイアンズへ。フランダンスショー見学のほか、実行委員会がアイデアを出し合って企画したクイズ大会が行われ、修学旅行最後の夜も盛り上がりました。

※フィールドパートナーとは、ツアー中のアテンド、ファシリテートを担当し、中立・客観的な立場から生徒と一緒に学びの成果に導く総合案内人

[生徒のコメント①]
「修学旅行先が東北になった時点で、これまで知らなかった東北を学べるチャンスと気持ちを切り替えて事前学習に取り組んできた。東日本大震災・原子力災害伝承館の展示で見た“震災前の普通の町”と、帰還困難区域で見た“一瞬にして日常が奪われた光景”との違いが強く印象に残った。自分の中での防災に対する意識が大きく変わり、災害が起きた後の生活も想像力を働かせて予習しておくことが本当の意味での防災だと思った。家族がそれぞれ避難した際に、連絡がとれずどこにいるか分からないことがいつも問題になるので、災害が起きたときに簡単に居場所が分かる通信機器の開発に興味が沸いた。コロナ禍の中での修学旅行となったが、行く前からみんなで感染防止の意識を徹底し、全員で行くことができてよかった。旅行中はクラスのみんなとたくさん話をする機会があり、クラスの仲がとてもよくなってうれしい。」
2年 厚地 俊哉(あつち しゅんや)さん

[生徒のコメント②]
「事前学習で福島のこと、原発事故について学んでこなければ、ずっと受け身で見たり、聞いたりしたかもしれない。いろいろな立場の方から話を聞いて、単純な思いだけではないこと、さまざまな視点から東日本大震災・原子力災害を考えるようになり、福島第一原発での事故の教訓をほかの原発の安全対策につなげることと、決して事故を起こさないことが大切だと思った。また、宮城、福島には、震災当時の思いを伝えながら復興活動を行っている方がたくさんいることを知ることができてよかったし、一人ひとりが意見を持つこと、人の意見を尊重することが大切だと思うようになった。修学旅行を通して、自分に足りない力も見えてきた。将来、先生になりたいと思っているが、その立場になったときの判断力、責任感の大事さ、重要さに気付けたことが一番大きい。高校生のうちから少しずつでも身に付けられる努力をして、将来に役立てられるようにしたい。」
2年 空閑 栞里(くが しおり)さん


[生徒のコメント③]
「現実と理想のギャップをすごく感じた。福島に来る前は、東日本大震災から10年が経とうとしているし、復興していると勝手に思っていたところがあった。バスで帰還困難区域を通ったとき、復興しているという理想を作り上げていただけで、現実から目をそらして、自分の中で原発事故を風化させていただけだったと感じた。また、原発の問題を考えることで、物事は利点だけを見るのではなく、負の部分もちゃんと捉えることの大切さに気付いた。今演劇部に在籍していて、将来も演劇にかかわっていきたいと考えている。宮城で震災の話をしてくださったおかみさんが、衣食住だけでは生活にメリハリがなく、楽しみがないとどんどん悩んでしまうと言っていたのを聞いて、劇で表現することで笑わせることや楽しませることができるのではないか、災害が起きていない地域でも伝えられることがあるのではないかと思った。震災をテーマにした劇の台本を起こしたり、演じたりして、自分なりに後世へ伝えていけたらいいなと思っている。」
2年 花田 真菜美(はなだ まなみ)さん

[先生のコメント]
「今回、修学旅行でホープツーリズムを実施するにあたり、福島の方々と共に作り上げることができ大変助かりました。生徒たちはそれぞれの立場の方から話を聞くことができ、今まで考えもしなかった事象を考えるきっかけになったと思います。フィールドワークでの大平山霊園では、生徒たちが命の境目を感じ取れている様子がうかがえました。石巻市立大川小学校の“救えなかった命”と、請戸小学校の“救えた命”の両方の話が聞けたのがよかったと思います。本校の生徒には、将来、さまざまな場面でリーダーを担ってほしいと思っています。旅行後に学校で行った事後学習では、「未来に向けて関わり続けたいことを考える」をテーマにワークショップを行いましたが、自分の意見をきちんと伝えつつ、相手の意見もしっかり聞く生徒の姿がありました。今後、もっと独自の考え方、自分事として落とし込むことができるはずです。今回の学びを、総合的な探究の授業で継続して考え続けることが大切で、さらに深めて自分の進みたい未来を切り拓いていってほしいと思います。」
福岡県立福岡高等学校 福田 匡弘 先生

◎ホープツーリズム
https://www.hopetourism.jp/
◎東日本大震災・原子力災害伝承館
https://www.tif.ne.jp/kyoiku/info/disp.html?id=598

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