INTERVIEW インタビュー

特別インタビュー

発酵デザイナー 小倉 ヒラクさん

ふくしま発酵ツーリズムに寄せて

味噌、醤油、漬物。日々の食卓に必ず一つはある発酵食品は、和食の基盤であると同事に、その土地の気候風土や歴史が刻み込まれた「記憶の方舟」です。当たり前に食べられている郷土の発酵食を紐解いてみると、他の土地にはないユニークな歴史的背景や味の好み、生態系の個性が反映されていたりすることも。

その土地ならではの気候条件や、微生物の違いによって全く違う味わいになってしまう。そんな人智の及ばないところが、結果的に「その土地らしさ」を表現する魅力になってしまうのです。モノが溢れる成熟社会のなかで、発酵に注目が集まるのは「見えない自然の理(ことわり)」の面白さです。

美味しい!健康にいい!が入り口の発酵。一度その扉を開ければ、奥には何百年にも渡る長く深い世界が続いています。「発酵ツーリズム」は発酵を切り口に、普通の観光では体験し得ない、深い学びと見たことのない光景、驚きの味覚に出会える旅のプログラムなのです。

福島県は、太平洋に面した「浜通り」、関東と東北をつなぐ要処である「中通り」、起伏に富んだ山野に囲まれた「会津」のキャラクターの違う3つのエリアから構成されます。海沿いでは、魚介を活かした「海の発酵」、安達太良山や磐梯山の山間地では、保存食の知恵を活かした「山の発酵」、郡山や会津などでは、酒はじめ付加価値の高い嗜好品で構成される「街の発酵」と、日本の発酵文化の類型が凝縮された土地柄です。

つまり、ふくしまの発酵文化を巡るということは、日本の発酵文化の類型を学ぶことであると言えます。雪に閉ざされた冬を生き延びるための素朴な三五八漬けから、華やかな日本酒文化まで、穀倉地帯の利点である糀と海山の食材の組み合わせは、日本の発酵文化の王道です。和食の真髄を体感しに、ふくしまを巡りましょう。